続・学校の組織変革をデザインする
前回書いたブログ:「学校における組織変革をデザインする」にて、現在日本の学校が置かれている状況と、学校が組織として変革を進めていくために必要な3つの要素について書かせてもらいました。
上記について現場の先生方からいただいたコメントの中で、「実際に学校組織の変革を推し進めていくために個人としてPassionが必要だ」というご指摘があり、改めて自分の中で咀嚼したことを、続編として書いてみたいと思います。
1.変革を進めるために必要な「チェンジ・エージェント」の存在
組織開発(Organizational Development)の領域において、変革を担う人材のことを「チェンジ・エージェント」と呼んでいます。定義としては、
組織における変革の仕掛け人、あるいは触媒役として変化を起こしていく人のことを言います。変革の当事者として、自らそれを指揮すべき立場にある経営者や組織のトップとは一線を画し、むしろその代理人(エージェント)として、変化への対応を余儀なくされる組織のメンバーとの間を仲介し、信頼関係を醸成して、改革を支援・促進する役割を担うのがチェンジエージェントの立ち位置です。
※参照:「チェンジエージェント」とは? - 『日本の人事部』 より
ここで重要になってくるのは、トップは変革の指揮者(conductor)ではあるが、チェンジ・エージェントではないということ。つまり、トップ以外で組織内部に変革を推し進めるメンバーがその役割を担う必要がある、ということです。
これは、前編でも触れた「先生方のオーナーシップ」とリンクします。全てをトップがやってしまうと現場の先生方がついていけない、あるいは抵抗勢力を強くすることにつながり、変革がうまく進みません。
2.チェンジ・エージェントの条件
組織内部で変革を推進していく「チェンジ・エージェント」に求められる要件として、下記の4点が重要だと思っています。
- 噛み砕く力
- 巻き込む力
- やり切る力
- 変革を推し進めるための強いパッション
「噛み砕く力」
トップが示した変革のビジョンを実現していくために、誰が、いつ、何を、どうやって進めていくべきかの具体的なプランに落とし込んでいく必要があります。
ここで大切なことは、メンバーが「チャレンジングだけど、できそうかも」と思わせることです。トップのビジョンが現状からみて遥か彼方にあるように見えても、具体的なプランに「噛み砕く」ことで、メンバーが実行に移せるような橋渡しをしてあげることが重要です。
「巻き込む力」
計画したプランを実行に移すために、周囲の協力は必要不可欠です。
しかしながら、学校現場ではトップから言われてもやらないケースは珍しくなく、他の先生や職員の方々を巻き込むということはハードルが高いというのが現状です。
一方で、お会いする現場の先生方は「生徒のために」努力をされているし、知的好奇心や探究心が非常に高い人が多いです。そういう意味では、現場の先生に一定の権限を委譲し、一緒に知恵をしぼりながら新たな取り組みを進めていくように動機づけ、勇気づけ、(いい意味で)乗せていくことが重要です。
「やり切る力」
これは言わずもがなですが、変革が頓挫する大きな要因は、「結果が出るまでやり切れていない」ことと、「結果が出ていないので振り返りの材料や学びが得られない」ことだと思っています。
これは、計画通りにきちんと進めなければならないということでは決してありません。計画を実行する上での柔軟性はもちろん重要ですが、当初の計画時に立てていた「仮説」の検証ができたうえでの軌道修正が条件となります。
どんなプランも失敗がつきものであり、むしろ成長のための必須条件だと思っています。重要なのは、いかに早い段階で必要な失敗をし、そこから適切な学びを得ることができたかであり、そのためには変革メンバーの「やり切る力」が問われます。
「変革を推し進めるための強いパッション」
「噛み砕く力」「巻き込む力」「やり切る力」、これら3つの力を支える要素が、「強いパッション」です。
組織を変革する際には必ずトップと現場、先生同士、先生と生徒(保護者)など、さまざまな立場の間に摩擦が生じます。チェンジ・エージェントは、変革のプロセスを通じて最も異なる立場間の「板挟み」にあう確率が高い役割だとも言えます。
こういった状況を理解しながらも、それでも変革を進めていくためには、チェンジ・エージェントを担う人が信念を持ち、「強いパッション」でもって行動に移していくほかないと思っています。実際、面白い取り組みをしている学校の先生方とお会いすると、共通して強いパッションを持たれており、その勢いに圧倒されることも多いです(笑)
3.パッションの火を絶やさないために
チェンジ・エージェントが変革を進めていくためには、パッションの火を絶やさない組織の土壌づくりが必要です。具体的には、下記のチェックポイントが挙げられます。
- 小さな失敗や試行錯誤の許容など、チェンジ・エージェント自身がパッションの火を絶やさないよう、トップをはじめとした支援体制ができているか?
- トップやチェンジ・エージェントが変革を進める他メンバーのパッションに火をつけられているか?
- チェンジ・エージェントの火を消そうとするメンバーを、トップをはじめ組織として認識し、うまくコントロールできているか?
日本の学校自体が若干閉鎖的なこともあり、パッションの火を消す力が強く働くことがあります。個人としてはいかに多少の水をかけられても消えないパッションを持つかであり、組織としてはいかに可燃しやすい土壌づくりを進めていくかにかかっています。
個人としても、変革しやすい(=可燃性の高い)学校組織づくりに外部として貢献していければと改めて思います。